07.11.09 「愛があれば弾けるのか?」 ショパン ノクターン 13番 ピアノいきなり挑戦記

 深まり行く秋、そして芸術の秋に相応しい?私のピアノ挑戦記をお届けします。

 きっかけ
 韓国映画界のトップスターや製作者達が推薦する最高の映画音楽を集めたオムニバスアルバム
 『私の人生の映画音楽−映画に送る14人のラブレター』 (発売日:2003/7/29)の中で
 我が愛しのジョンジェさんが選んだ一曲は「ショパン ノクターン 13番」でした。
 私のピアノレベルは幼稚園の時にバイエルを習った記憶が微かにあるだけの辛うじてト音記号が読める程度。
 それでも、なんの迷いもなくこの曲に挑んだのは「愛があれば弾けるだろう」と、甘い錯覚がよぎったからなのか、
 それともピアノのことを知らなすぎたからか…



 1.Gabriel's Oboe - 映画監督 カム・ウソン - Ennio Morricone
 2. Love Theme- 映画俳優 イ・ビョンホン
 3. Non, Je Ne Regrett Rien- 映画俳優 チャン・ジンヨン - Edith Piaf
 4. Quizas,Quizas,Quizas- 映画俳優アン・ソキ - Nat King Cole
 5. Fly Me To The Moon- 映画俳優 チョ・スンウ - Julie London
 6. I Wish You Love (ワニとジュナ) - 映画俳優 キム・ヒソン - Lisa Ono
 7. Once Upon A Time In America - 映画人会の理事長、シネ2000代表イ・チュニョン
 8. Jazz Suit No.2 Waltz - Dimitri Shostakovich (Tell me someting) - 映画監督チャン・ユニョン
 9. Sweet Jane - 映画監督キム・ジウン - Cowboy Junkies
 10. 君の手で (バス、停留場) - ミョンフィルム代表シム・ジェミョン- LUCID FALL
 11. Super Humanism (Humanist) - 映画監督パク・チャヌク-オオブ
 12. Moon River - 映画俳優イ・ヨンエ - Nancy Wilson

 13. Nocturnes No.13 En Ut Mineur In C Minor, Op.48  No.1 - Frederic Chopin - 映画俳優 イ・ジョンジェ
 14. You Will Come - Zbigniew Preisner - シネ21編集長ホ・ムニョン

 

 『私の人生の映画音楽−映画に送る14人のラブレター』


 ピアノのこと
 誰も弾かないけれど、掃除好きな母がいつもピカピカに磨いて見た目は美しいピアノが、無謀な挑戦 の後押しをしてくれました。
 このピアノ、我が家には相応しくない高級品で40年くらい前、裕福な親戚から譲り受けたものです。
 静岡県浜松市にあるメーカー「クロイツェルピアノ」製のアップライトピアノで本体の材質は不明、色はワインレッド、
 白鍵は本象牙、黒鍵は黒檀で出来ています。ピアノの知識が殆どない私は、単なる贅沢品だと思っていましたが、
 調べると象牙は柔らかい、しっとりした感触のよいタッチが得られ、非常に細かい気孔があり水分を吸収する性質があるので、
 指に汗をかいた時などに滑らず吸い付けてくれるような感触になるのだそうです。
 但しワシントン条約発効後は例えフルコンサートのグランドピアノと言えども、本象牙を使用することは出来ないとのこと。
 黒鍵の材料として最高級のものは黒檀で、本象牙と同様に水分を適度に吸収して、
 指に汗をかいても滑らずミスタッチが少ないそうです。


 修理と調律
 決めたことは、すぐ始める性質の私は、全音楽譜出版社の「ショパンノクターン集」を昨年12月に早速購入し、
 いきなり弾き始めようとしたところ、ペダルの調子が悪いことと音程がおかしいことに気づきました。
 それでも「ペダルは無くてもまぁいいか」「どうせ上手く弾ける訳ないから下手なのは音程のおかしいピアノのせいにしよう」と
 構わず始めたところ、すぐさま甘い考えは否定されました。この曲、ペダルがないと成り立たない曲だったのです。
 これは修理と調律が先決だと気づき早速手配して技術者の方に来て頂きました。修理・調律後「このピアノは素晴らしい!」と
 その方に絶賛され、これで全く完璧なピアノが私の無謀な挑戦の為に用意されたことになりました。
 今回、挑戦前に参考に聴いたルービンシュタイン演奏のCDでの音色と、なんら遜色ないどころか、透明感ある音質と
 強く弾いた時の迫力感では勝っているようにも感じる我が家のピアノ、もう後には引けない状況が設定されたのでした。




 ショパン:夜想曲全集U/ルービンシュタイン(アルトゥール)
 BMGJAPAN
 1. 夜想曲第11番ト短調op.37-1
 2. 夜想曲第12番ト長調op.37-2
 3. 夜想曲第13番ハ短調op.48-1
 4. 夜想曲第14番嬰ヘ短調op.48-2
 5. 夜想曲第15番ヘ短調op.55-1
 6. 夜想曲第16番変ホ長調op.55-2
 7. 夜想曲第17番ロ長調op.62-1
 8. 夜想曲第18番ホ長調op.62-2
 9. 夜想曲第19番ホ短調op.72-1
 

   出版社:全音楽譜出版社
 書籍名:ショパン ノクターン集 解説付
 解説:上代万里江
 収録曲:
 Op.9 No.1,No.2,No.3
 Op.15 No.1,No.2,No.3
 Op.27 No.1,No.2
 Op.32 No.1,No.2
 Op.37 No.1,No.2
 Op.48 No.1,No.2
 Op.55 No.1,No.2
 Op.62 No.1,No.2
 Op.72 No.1
 Op.posth Lent con gran espression



 挑戦曲について
 物事をあまり深く考えずに行動するタイプの私は、あまりに難しそうな楽譜を見て愕然としましたが、
 とにかく時間をかけてコツコツやって行けばどうにかなると、落胆はしませんでした。
 ところが調べれば調べる程、この曲の難度は私にとって尋常でないことが明らかになって行きました。
 ノクターン全曲集のCDで確認したところ、2番(映画「愛情物語」テーマ曲)と20番(戦場のピアニスト」で随所に流れる曲)は
 知っていましたが、13番は聴いたことすらなく「あまり有名な曲じゃないのかしら?」と思いましたが、いろいろ調べて行くうちに、
 ピアニストを始め、ピアノ愛好者には非常に人気の高い曲だと判明しました。
 ノクターン全曲中の最高傑作であるばかりでなく、ショパンの全てのピアノ曲の中において最高傑作のひとつに挙げられると、
 絶賛する声があちらこちらに載っていたのです。又、難度はノクターンの中で一番難しい曲とされていました。
 それにしてもどうして、あまり有名でないのか理解出来ないほど、壮大なスケールで劇的な名曲です。
 この曲を随一の推薦曲として紹介したジョンジェさんの良識には心底感心し、彼への愛はますます深まるばかりとなりました。


 調op.48-1
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 挑戦開始1部
 先ず、最初はピアノ教室に通うことを考えましたが、あまりに無謀な挑戦を先生に「いきなりは無理です」と言われることを
 恐れて独学を決心しました。現在の生活パターンから、教室に通う時間的余裕が無かったことも独学を決めた理由のひとつです。

 3部形式(ABA’)で書かれている、冒頭部「A」(1部)は速度の指示がLento(ゆっくりした)で静かに始まりますが、
 ハ短調なのでミとラとシが半音下がり黒鍵を弾かなければならず、私にとってはそれだけでも大変なことでした。
 しかも、不規則な和音の左手と右手のかけ合いが続くので、特に「ヘ音記号」には音符にドレミのフリガナをふらないと、
 楽譜を見ただけで音を追うのは不可能な状態でした。それでも1音1音、コツコツと、弾くというよりは鍵盤に指を置くような
 作業を繰り返し続けていたら、何となく曲らしくなってきて、いつの間にか、「A」後半のクライマックスでは、
 自分で自分に酔いしれるような恍惚感さえ、味わうことが出来るまでになりました。
 始めてから3ヶ月が経過した頃は「やっぱり愛があれば弾けるんだわ」と有頂天になった時期でもあります。
 ちなみに練習時間は1日15分が限度の為、可能な限り毎日弾くようにしていました。



 挑戦開始2部
 そして、いよいよ中間部「B」(2部)へ。「B」はハ長調に変わるので、黒鍵を使う必要がなくなる分、気持ちが楽でしたが、
 いきなり壁にぶち当たりました。CDで聴いた時、連続でハープの音色のように美しく聞こえた部分は、単なる和音ではなく、
 低音域から高音域へと向かう広い音域のアルペジオ(分散和音)でした。それには「指くぐり」が連続的に必要とわかり、
 単に鍵盤に指を置くようなレベルでは不可能な芸当だと気づきました。
 所謂「ピアノのテクニック」を身に付けなければいけない時期に突入したのです。
 ともかくインターネットで「ピアノのテクニック」が学べるサイトを探しました。
 探してみると役に立つサイトは沢山あるもので、貪るように読んでは、実際に試してみました。
 それを繰り返しているうちに、必要な技は「指くぐり」の他にも、親指を寝かせ気味にして同時に隣同士の2音を弾く技など、
 いろいろ出て来ましたが、どうにかクリアして行きました。

 その間に、腱鞘炎と、手のひらを目一杯開き過ぎたせいか、親指と人差し指の付け根あたりが肉離れのような
 症状に見舞われます。そう言えば「素人が軽い気持ちで手を出すと怪我をする恐れがある曲」と紹介してるサイトもありました。
 それでも、一度もやめようと思わなかったのは、やはりジョンジェさんに対する深い愛情があるからでしょうか・・・

 慣れてきたのか麻痺してきたのか、いつの間にか腱鞘炎も肉離れも何処かに消え去り、
 「B」のクライマックスと言える両手オクターブの3連符連続部分に突入。細かく和音が絶妙に変化する美しさが印象的で、
 さぞかし難所であろうと予想していましたが、以外や以外、この部分、結構簡単ではありませんか。
 これまでの地道な努力で身に付いた力が花開いたのか?それともこの部分は誰が弾いても簡単なのか?
 まぁ簡単なんでしょうね。ところが、この部分は素人が聴くと難しそうに聞こえる部分なんです。
 「B」前半のアルペジオは、それほどでもなさそうに聞こえて実は超難関だったのとは逆です。
 この辺に来て、とにかく大変だったのは難しい部分を小さい音(P)で弾くことでした。
 難しいと力が入って大きな音になってしまうのを押さえる程、難しいことはないと実感しました。

 簡単そうなところが実は難しく、難しそうなところが実は簡単だったりするのは、ピアノに限らずよくあることです。
 難しそうだからと躊躇してしまうことも、簡単そうだから甘くみることも、ありがちのため良い教訓としながら、
 どうにか「B」が完成に近づくまでに10ヶ月を費やしました。

 「A」が終わった直後の「やっぱり愛があれば弾けるんだわ」と有頂天になった時とは別の意味で、
 「B」が終わりつつある今、同じことを思っています。



 これから
 ついに「A’」(3部)へ突入します。「A」の再現部でありながら、「A」の2倍の早さになりいきなり音符が増えます。
 今回「突入」と言う単語を頻繁に使っているとお思いでしょうが、まさにそんな勢いが無いと入って行けない程の難度を
 表現したくて、あえて使っています。
 全体がこの曲最大のクライマックスであり、壮大且つ劇的で男性的、しかも、最初の部分では
 「ピアニッシモ(更に弱く)且つアジタート(激しく・興奮して)」の指示。
 そんなことが可能なんでしょうか?限りない表現力が問われそうです。そして数回登場する右手和音の非常に速い連続符は
 楽譜を見た限り、右手が4拍子で左手が3拍子。果たしてこの人間離れした技をこなせるのでしょうか?

 弾けば弾くほど増してくる、込み上げるような激情感は、まさに私のジョンジェさんへの思いを的確に表現するのに、
 これほど適した方法は他にあり得ないほど素晴らしいものです。
 イ・ジョンジェと言う韓国人俳優の虜になった私は、彼の「追っかけ」をするエネルギーを、
 全てピアノに注ぎ込んで「ショパン ノクターン 13番」の完成を目指しています。それを何処かで発表したいとか、
 それを録音して彼に贈ろうとか、そう言った願望は皆無です。
 ただ、ただ、自己満足のために有り余る愛情の昇華対象として、この方法を選びました。

 「A」に3ヶ月、「B」に10ヶ月を費やしたことから考えて、「A’」にはおよそ20ヶ月の時間が必要だと予想されます。
 でも、完成する日は必ず来ると信じています。可能か不可能かの尺度は、その愛の深さと大きさによるものではないでしょうか。

 音楽を聴いて感動することは、これまでも度々ありました。
 でも自分の演奏で自分が感極まる経験は今回が初めてです。
 それは簡単に言葉では表せない素晴らしい瞬間であり、何ものにも代え難い貴重な体験です。
 日常生活の一部として家の中で、これほどの醍醐味が得られるなら、もうこれ以上の望みはないと思えてくる毎日です。

 読んでくださっている皆さまにも、日常的に味わえる自分ならではの熱い瞬間を見つけて頂きたいと切に願います。

 最後になりますが、インターネットのサイトから様々な情報を得ることにより、独学でここまで来ることが出来ました。
 惜しげもなく「ピアノの技術的な内容」「ショパンに関する詳細な情報」等を提供して下さっている
 全ての皆さまに心より感謝を申しあげます。



            今日も素敵な笑顔のジョンジェさん




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