09.04.05 検証シリーズ 映画「タイフーン」 Part 4(最終回)

 私にとって特別な作品、映画「タイフーン」の批判的な意見の中で、どうしても弁護したい点について書いています。


              


 いよいよ最終回、 (7)「訴えたいこと、言いたいことが多すぎてまとまりがない」を残すだけとなりました。

 私が、見た限りで一番多かった批判的な意見は「シンの作戦が唐突過ぎる」と言った内容でした。詳細を挙げると、

 (1)2つの台風の相互作用で起きる現象「藤原の効果」を見込んでの作戦だが、現象が起こらなかったらどうするのか?

 (2)風船爆弾の発想が滑稽だ。

 (3)いろいろ準備してきたのに最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったことが理解出来ない。

 (4)銃撃シーンが多く残酷過ぎる。


 また、同期の独身仲間と共にその作戦を阻止するために立ち上がったセジョンに対しても、

 (5)今どきの若者が国のために命を投げ出そうなどと考えるはずがない、美化して描いている。

 (6)これから死ぬかもしれないのに随分淡々としている。


 そして、全体的に、

 (7)訴えたいこと、言いたいことが多過ぎてまとまりがない。


『2005年ソウルタワーで開催された「タイフーン展」より  セジョンの衣装と装備 画像提供:miyukiさん


  ロシアのシーンが必要だった訳

『ロシア・ウスリースクの風景』


 私自身は、映画「タイフーン」により、国家分断の悲劇と北朝鮮の悲惨な現実をあらためて確認出来ましたが、

 「訴えたいこと、言いたいことが多過ぎてまとまりがない」と多くの人が感じたのは何故でしょうか? 

 そのことを先ず考えて行きたいと思います。具体的意見としては、「舞台が4ヵ国は多過ぎる」「主役が海賊なのでタイは仕方

 ないにしてもロシアは余計だったのではないか」「チェルノブイリ原発事故まで持ち出しては焦点がぼやけてしまう」

 「“アメリカが核弾頭ミサイルの衛星誘導装置を沖縄に搬送中”の設定に違和感がある」などがありました。


『2005年ソウルタワーで開催された「タイフーン展」より  核廃棄物と衛星誘導装置のレシーバーキット 画像提供:miyukiさん


 韓国には国家分断の直接的原因となった「朝鮮戦争」だけにスポットを当てて考えてみたとしても、何処へ怒りをぶつければ

 良いかわらないほど複雑な思いを抱えている事情があります。北朝鮮は敵対国でありながら同じ言葉を使用する同一民族、

 中国は北朝鮮に加勢し、アメリカから勃発の引き金となった発言が出ており、日本は豊臣秀吉の朝鮮出兵や韓国併合などの

 許しがたい歴史があるのに戦争による特需のお陰で経済大国になり(事実かどうかは別として)、アメリカとの直接対決を望ま

 ないロシア(当時ソビエト連邦)は表に出なかったものの決定的な攻撃を受けた主要武器はソビエト製であった等、東西冷戦の

 犠牲になったとの怒りや深い悲しみを抱き続けていると思います。

 上記の様子を個人的な人間関係に例えて、自分が韓国だったとしたら、直接大喧嘩している北朝鮮と助けている中国もさる

 ことながら、信頼出来る人は誰もいなくて、アメリカからは馬鹿にされているような気がするし、日本は憎らしいし、ロシア

 怖くて陰険だし…もう何もかもイヤッ!!と、ヒステリーを起こしそう状態ではないでしょうか。

 このような事情から、ロシアに対する不満も盛り込みたかったことが理解出来ます。


『ロシア・ウラジオストック駅歩道橋のシンとセジョン』


 そもそも朝鮮戦争とは?

 朝鮮戦争(1950年6月25日 - 1953年7月27日停戦、事実上終結)は、韓国では韓国動乱または6・25(ユギオ)、北朝鮮では

 祖国解放戦争、中国では抗美援朝戦争(「美」はアメリカの略)、アメリカではKorean Warと呼ばれています。

 成立したばかりの大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の間で主権を巡って勃発した国際戦争で「韓国・アメリカを中心とした

 16ヵ国参加の国連軍」と「北朝鮮・中国」が戦いました。この戦争は国連安全保障理事会の決議で北朝鮮による韓国への

 侵略戦争と定義されており、国際社会での認識も一致していますが、朝鮮全土が戦場となって荒果て、尊い命が犠牲になり、

 二国に分断が確定され、家族が離散する数多くの悲劇も生まれました。


『朝鮮戦争の戦況(緑が韓国・国連軍の占領地域、赤が北朝鮮・中国の占領地域)』


 朝鮮戦争の引き金となった冷戦構造

 民間主導の資本主義と国家主導の共産主義、遡れば古代から社会体制を模索する動きがありましたが、20世紀前半は、

 特にさまざまな形の共産主義を試した時期でもありました。互いに正当性を主張し合い政治的対立が起こり冷戦構造が

 生まれました。そもそも共産主義は、貧しい生活から抜け出して豊かになりたい気持ちから個別の競争より、国家主導型

 の体制の方が上手く行くだろうと考えられたものでしたが、実際は豊かにならないばかりか弊害がたくさん生まれました。

 たとえ貧しくても心は豊かで最低限人間らしい生活が出来ていれば、人は簡単に自分の国を捨てたりするでしょうか?

 共産義国家の人が、資本主義国家に亡命することはあっても、その逆はないことからも、いかに弊害が大きかったかを、垣間

 見ることが出来ます。やがてソ連が崩壊し、ベルリンの壁が除去され、資本主義の有利性が証明され、中国は解放政策を

 発動し一部に資本主義を採り入れた体制に変化しました。

 ところが、以上のような世界の潮流に逆らって、いつまでも変われない国があります。変わらない、絶対変わりたくないと

 言った方が適切でしょうか。


 主体(チュチェ)思想と悲惨な実態

『北朝鮮の悲惨な現状を知ることが出来る本』


 地理的要因もあって周辺国の影響に苦しんでいた朝鮮半島では、金日成が独立性と主体性を哲学的に主張した独自の

 社会主義「主体思想」を創設し、その息子、金正日が発展させました。内容は「革命と建設の主人公は人民大衆であり、

 革命と建設を促進する力も人民大衆にある。革命と建設の主人公である人民大衆は必ず首領の指導を受けなければならない」


 と、何とも辻褄が合わない思想です。それでも人々が豊かで人間らしい生活が出来れば大きな反発が起きることはなかった

 はずですが、豊かどころか最低限の生活すら出来ませんでした。生きて行くために一番大切な食料、首をかしげたくなる

 ような「主体(チュチェ)農法」が原因で深刻な食糧危機を招きました。農業は太古の時代から先人が試行錯誤しながら、

 その土地にあった方法で行われて来ました。近代になり科学的な方法が各地で取り入れられても、先人の知恵を尊重した

 うえでの改良が基本でした。ところが「主体農法」は、そのような知恵を一切否定して覆す愚かな方法で、例えば「田んぼに

 稲を植える時は、高密度に植えず十分余裕を持たせることで豊かな実りを得る」と言う基本を覆し、異常な高密度で植える

 ことを指示命令し、従わない農民を罰するような政策をとりました。従わなければ収容所に入れられ、従って高密度に植えれば

 当然、豊かな実りはなく、食料が不足して行きました。そして強引に山林を農地にかえる政策により禿山だらけとなり、わずか

 な雨でも洪水が多発し、大量の土砂が海に流れ込み、頼みの漁業まで不振となり、悪循環は留まることを知りませんでした。


『北朝鮮での惨状と脱北の様子を語るシンの姉、真摯に受け止め聞き入るセジョン』


 半分だけでも自由が守られたことの意味

 間違いを犯すことは誰にでもあり、国家にも同じことが言えます。大切なのは間違えたことをいつまでも悔んだり、間違いと知り

 つつ放置せず間違いだったと素直に認めて、やり直すことです。それが簡単に出来る個人や国家は幸せに成長や発展を遂げ

 いつまでも出来なければ不幸や停滞が続きます。北朝鮮の惨状を知る韓国の人々は、朝鮮戦争の傷が癒えないにしても、自分

 は韓国側にいられて良かったと思っているに違いありません。いくら経済不況に喘いでいたとしても、満足な食料もなく収容所で

 暮らすより、どれほど良いかと。いずれにしても、韓国だけでも自由国家として存続していることは、全てがデタラメな主体思想の

 国になるよりは確実に良かったことで、これからは力を蓄えて悲惨な同胞を救うことが与えられた使命ではないでしょうか。

 人の道に外れた行為を続けていると個人でも国家でも、その発言や行為の辻褄がどんどん合わなくなって行くものです。

 それを指摘されると最初はどうにか繕って言い訳を考えますが、すぐに言い訳さえ浮かばないほど辻褄が合わなくなり開き直る

 以外に方法がなくなります。そうなって来ると恫喝したり言いがかりをつけては相手を脅すといった行為に至り、ますます逸脱

 して取り返しがつかなくなる、これが悪循環のメカニズムです


『ペク・ソニョップ氏の著書』


 半分自由が守られた陰には、知る人ぞ知る(軍事マニアや嫌韓の方々からも心底尊敬されている)韓国の立派な指揮官の

 存在があり、数えきれないほど古今東西の歴史小説を読んで来た私としても、その勇敢さ潔さ冷静さにおいて彼より勝る人物

 を他には知りません。上載の赤と緑で表した朝鮮戦争の戦況図の左から2番めを見て頂くと、1950年9月、大邱と釜山を残し、

 赤く塗りつぶされているのがわかります。ここまで攻め込まれ韓国軍が釜山一帯に追い詰められた釜山橋頭堡防衛戦線の

 一部「多富洞の戦い」では、正規部隊は激しく消耗し大部分が訓練経験の無い農民達で構成されていました。

 対する北朝鮮軍は経験豊かな精強の正規部隊と言う絶対絶命のピンチ、2日間も補給が絶え、自らもマラリアにかかって高熱

 があるなか敗走する将兵を引きとめ、ペク・ソニョップ将軍は言いました。「これまで良く頑張ってくれた 言葉もない だがもう

 我々に帰る場所はない 韓国を滅ぼしてはならない気持ちは皆同じである 今から突撃に行こう 私が先頭だ もし私が気後れを

 見せたら躊躇せず撃て 支援射撃の最終弾と供に突撃だ 私に続け」
と自らが先陣を切って逆襲突撃、2キロ半を全速力で駆け

 抜け北朝鮮軍を撃破する近代軍史上例を見ない勲功を残しました。ここで辛うじて持ち堪えた韓国軍は、1950年9月の仁川

 上陸作戦の成功により体勢は一気に逆転、ソウルを奪還し最悪の事態を免れたのでした。

 ところがある時、私は彼の活躍を知らない韓国人がとても多いことを知りました。親日派であることが敬遠され、功績を称える

 教育がされないことが原因のようです。彼の超人的な活躍をもっと理解し命がけで守られた自由を大切にすることこそが、今後

 に繋がる行為ではないかと思います。半分だけ守られた自由が今後を切り開く鍵です。


『タイフーン号で激しく激突するシンとセジョン』


 核兵器と核保有国

 話は前後しますが、ロシアの核廃棄物を処理する液化気体工場を登場させることで、ロシアに対するわだかまりを表現する他に

 核兵器の恐ろしさ、チェルノブイリ原発事故の悲惨さを訴えるだけに留まらず、核保有大国に対しての痛烈な牽制も込められて

 いると私は感じました。チェルノブイリ原発事故の二次的被害については、「タイフーン」によって初めて知ったことで、いかに

 危機管理体制の整備が必要かを思い知らされました。

 敵対国ではあるが、同一民族の北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだアメリカ自体が核保有国の最たるものであり、その脅威に同胞も

 晒されているかと思えば、何とも複雑な感情が生まれるのも当然だと思います。その複雑さ故、映画「タイフーン」が、まとまりの

 ない作品だと思われた一番の要因だと察しますが、その絡まりあった複雑さを表現するには適切な方法だったと私は思います。


『ロシアの核廃棄物を処理する液化気体工場の様子』


 エネルギーの不思議と人間関係・国家同士の関係が悪くなるメカニズム

 日本はアメリカに2個の原子爆弾を投下され、人類史上類をみない甚大な被害を被った事実があり、その事に対する悲しみや

 怒りが完全に消えることはありません。私がどうしても納得出来ないのは「原爆投下がこれ以上犠牲を出さずに戦争をやめ

 させるため」だったら1個で十分だったはずなのに、2個目を投下した行為です。でも、その「悲しみや怒り」と言ったマイナスな

 エネルギーよりも、平和や自国の復興・発展に尽力するパワーの方が勝っていました。いつしか「恨み」さえも「祈り」や「教訓」

 と言ったプラスのエネルギーにかえて頑張ってきたのが戦後の逞しい日本人です。

 それは我が国の誇るべき国民性ではないでしょうか。

 それにしてもエネルギーとは摩訶不思議なものです。良いエネルギーがたくさん集まって1つになれば偉業さえも、いとも簡単

 に成し遂げてしまうものですし、逆に北朝鮮のように悪いエネルギーが蔓延して、国民は多大な苦痛の中で生きざるを得ない

 状況が長く続いています。そのことを真正面から訴えた「タイフーン」のような素晴らしい作品が正当な評価を受けられなかった

 のは以上のように平和や人々の幸せ望まないエネルギーの圧力も、ひとつの要因だと思っています。

 韓国は、過去の不幸な歴史に対する恨みよりも、自国の発展や平和な未来を願う明るいパワーが勝った時、

 日本は、形だけの謝罪や保障でなく、隣国を愛する気持ちの方が勝った時、両国に真の友好関係が生まれると思います。

 そして、いつまでも悪しき檻の中に閉じ込められたままの北朝鮮の人達を救い出して、自由な世界があることを知ってもらう為、

 力を合わせることが出来たらどんなに素晴らしいでしょうか。純粋な思いが良いエネルギーに変わって、それがたくさん集まって

 大きなパワーとなり堅固で見えない壁がぶち壊わされる日が近いことを願ってやみません。


『韓国海軍に復帰したセジョン(実際の駆逐艦はタイ海軍 フリゲート ナレーサン)』


 結論として

 (7)「訴えたいこと、言いたいことが多すぎてまとまりがない」は、そのように思われることを承知の上で、敢えてさまざまな韓国

 が抱く怒りや悲しみを盛り込みながら、北朝鮮で苦しんでいる人々を一刻も早く救いたいとの緊迫感を表現した手法だと私は

 理解しています。又、韓国の衣食住の文化を見ると実に色使いが鮮やかなことに気づきますが、代表的な食べ物「ビビンパプ」

 は鮮やかな色の多数の食材をよくかき混ぜることにより、美味しさを引き出しています。そしてテーブルにはメインの料理の他

 沢山のおかずが並びます。このような文化や習慣がある韓国ならではの国民性が作品にも出ており、誰の物真似でもない

 韓国らしい作品であり、私にとって永遠不滅の名作です。

 私は、いかなる宗教的・思想的団体にも所属せず、独自の感性と経験に基づいて私自身が正しいと自信が持てることだけを

 気ままに書いています。まだまだ書き足りないことが沢山ありますので、また別のジョンジェ作品を通して、お目にかかり

 たいと思っています。愛するジョンジェさんが今後も良い作品に巡り逢って良い演技が出来ますように、ファンがみんな仲良く

 健やかに、彼を応援出来ますように心から願っています。お付き合い頂き本当にありがとうございました。


『船首甲板でシンに思いを馳せるセジョン』


 オ・ミンさんの「セジョンの gif collection」も遂に最終回、タイフーン号での激しい激突シーンの続きから、海軍に復帰して洋上

 での最終シーンまでです。この素晴らしい最終回を飾るに相応しい「RIOT」「Narira」はインストロメンタルの最高傑作と絶賛

 された名曲でアルバム名も同名の「成田」、成田空港開港反対運動「成田闘争」をモチーフにしたコンセプトアルバムです。

 30年前の出来事が蘇りますが、アメリカのロックバンドが日本国内の問題に着目した点が非常に興味深いところでした。

 最後はセジョンと特殊部隊隊員が全員救出され、ほっとして終わるのでポップな曲「Watching the Signs」を選びました。

 でも詩の内容は、しっかりと前向きな「戦士への激励」を表現しています。

 オ・ミンさんの「セジョンの gif collection」は始った当初、これほどの超大作になるとは思わず、この半分くらいの作品数を予想

 していましたが、いつの間に11作品となり、そのお陰で「RIOT」の曲も希望の候補曲を全て使うことが出来ました。

 オ・ミンさんに深謝するとともに、自身を鼓舞する大切な宝物として末永く大事にして行きたいとの気持ちをあらたに致しました。


『今年スウェーデンのライブを控え新たな活躍が期待される RIOT』


 MV『セジョンの gif collection-11(制作 オ・ミンさん) RIOT Narita & Watching the Signs』



                      Part3 へ    JJギャラリーに戻る

                      
inserted by FC2 system