09.03.12 検証シリーズ 映画「タイフーン」 Part 3

 私にとって特別な作品、映画「タイフーン」の批判的な意見の中で、どうしても弁護したい点について書いています。


              


 Part 2では下記、 (3) まで進みましたので、今回は (4) の「銃撃シーンが多く残酷過ぎる」から始めます。

 私が、見た限りで一番多かった批判的な意見は「シンの作戦が唐突過ぎる」と言った内容でした。詳細を挙げると、

 (1)2つの台風の相互作用で起きる現象「藤原の効果」を見込んでの作戦だが、現象が起こらなかったらどうするのか?

 (2)風船爆弾の発想が滑稽だ。

 (3)いろいろ準備してきたのに最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったことが理解出来ない。

 (4)銃撃シーンが多く残酷過ぎる。


 また、同期の独身仲間と共にその作戦を阻止するために立ち上がったセジョンに対しても、

 (5)今どきの若者が国のために命を投げ出そうなどと考えるはずがない、美化して描いている。

 (6)これから死ぬかもしれないのに随分淡々としている。


 そして、全体的に、

 (7)訴えたいこと、言いたいことが多過ぎてまとまりがない。


 残酷な銃撃シーンから発信されるメッセージ

『トンプソンが使用したダットサイト(光学照準器)付のコルトM4カービン』


 冒頭、アメリカが民間の貨物船を借りて、核弾頭ミサイルの衛星誘導装置を運搬中、海賊が襲うシーンでは、漂流して助けを

 求める芝居をする海賊に対して、アメリカ側のトンプソンと呼ばれる男が、ダットサイト(光学照準器)付のコルトM4カービン

 皆殺しにしようとします。この銃はアメリカ製の軍用ライフルで20発〜30発を装填することが出来、アメリカ軍を始め、イギリス

 オーストラリアなどの特殊部隊でも広く使用されている、西側諸国代表選手とも言えるような突撃銃です。

 対して、皆殺しにされたはずの海賊は全員無事で貨物船に乗り移り反撃が開始されますが、海賊のリーダー シンが使用した

 USSR AK-47(通称:カラシニコフ)は旧ソビエト製、東側の代表選手です。コピー品も含めれば全世界で約5億挺も存在すると

 推測され人類史上、最も多くの人を殺した兵器と言われています。


『シンが使用したUSSR AK-47(カラシニコフ)』


 南北分断の悲劇に関しては今後詳しく紹介する予定ですが、そもそも東西の冷戦が大きく絡んでいたことは、周知の通りで、

 冒頭からの対照的な突撃銃対決には、深い意味が込められていると感じました。


 対岸の火事では済まない現実

『旧ソビエト製 ZPU-2 連装機関銃、自爆して沈没した工作船「長漁3705」を引き上げる作業 とんぺいの機械博物館 より』


 前シリーズ『カン・セジョン(イ・ジョンジェ)との運命的な出逢い Part 2』で触れたように2002年6月29日に発生した

 「第2延坪海戦(西海交戦)」で、北朝鮮の警備艇の攻撃により沈没した「チャムスリ(オオワシ)357」を引き上げて調べた結果

 によると、258発もの被弾跡があり、そのうちの234発が14.4ミリ砲弾でしたが砲弾から旧ソビエト製 ZPU-2 連装機関銃

 ないかと考えられています。その半年前の2001年12月22日、「九州南西海域工作船事件」が発生しました。

 当時は「不審船事件」と呼ばれ記憶に残っているかもしれませんが、日本の排他的経済水域を侵犯した北朝鮮の工作船

 「長漁3705」を海上保安庁の巡視艇が追跡して攻撃を受け、3名の海上保安官が負傷した事件です。正当防衛射撃により、

 その後、不審船「長漁3705」は自爆して沈没しましたが、後日引き上げられ詳細が明らかになると、「チャムスリ(オオワシ)357」

 が攻撃された時と同じと思われる、ZPU-2 連装機関銃が発見された他、高性能な最新の武器が数多く搭載されていたことが

 判明しました。幸い3名の負傷で済んだ事件でしたが、ひとつ間違えば大惨事になる危険性は多いにあり、日本国内であっても

 安全が100%保障されている訳ではありません。

 いざ銃撃戦が始まると、連射が可能な高性能機関銃が一般的となっている現実からして、残酷とも思える銃撃シーンは決して

 誇張ではなく現実に即したものです。


『工作船「長漁3705」を追撃する巡視船「いなさ」 とんぺいの機械博物館(海上保安庁ホームページ) より』


 ちなみに、 2005年7月にフジテレビで放送された、ドラマ『海猿』(原作:佐藤秀峰)の6話〜8話で、このエピソードと酷似の

 シーンが放送されるらしいと聞いて、普段テレビを観る習慣が無い私も、この3話だけは観た記憶があります。

 両親が以前に NHK BSで放送された、国分太一主演の『海猿』がとても良かったと話していたのを思い出し期待して観たところ

 随分イメージが違い驚きましたが、追跡シーン等は臨場感があり良かったと思います。


 結論として

 (4)「銃撃シーンが多く残酷過ぎる」あえて冒頭から目を覆いたくなる「残酷な銃撃シーン」を見せつけたのは、東西冷戦の犠牲

 になった朝鮮半島の悲劇を訴えたいと言うプロローグであり、現実の世界情勢に無関心な人々に喚起を促す意味も大いに込め

 られており、制作者の強く正しいメッセージであると感じます。残酷な銃撃シーンを観て不快に思ったら「でも、これが現実だ」と

 受け止めつつ、そうでない世界を目指すには「どうすれば良いか」一人一人が考えることが大河の一滴になると信じています。

 「私の行いは大河の一滴にすぎない でも何もしなければ その一滴も生まれないのです (マザー・サレサ) 」


『タイフーン号で始まった激しい銃撃シーン』


 徴兵制度がある韓国でも極めて特別な存在です

 次に、カン・セジョンに対する批判に移ります。

 (5)今どきの若者が国のために命を投げ出そうなどと考えるはずがない、美化して描いている。

 (6)これから死ぬかもしれないのに随分淡々としている。

 この2項目は類似しているので合わせて書きたいと思います。先ず、この批判に対しては、カン・セジョンの人物像を精査する

 必要がありますので、その辺から始めます。

 シンに奪われたレシーバーキットを極秘に奪回するための要員を選出するシーンで、適任者の主な条件は以下の通りでした。

 ☆特殊部隊の出身者 ☆少尉以上の将校 ☆海に詳しい特殊作戦の経験者

 そして選ばれた、カン・セジョンは、

 ☆1973年生まれ ☆海軍士官学校第50期次席卒業 ☆アメリカで特殊作戦を学ぶ

 ☆1996年の武装スパイ事件で北朝鮮の工作船を最後まで追撃して全滅させた ☆2003年より海軍諜報部隊の広報課勤務

 ☆11歳の時、中佐だった父は特殊作戦中に死亡 ☆母は巨済島の小学校教師  と説明されています。

 このことからセジョンが、4年制の海軍士官学校を優秀な成績で卒業したのは、1995年あたりと言えるでしょう。


 韓国海軍士官学校とは

『鎮海市 海軍士官学校 全景』


 海軍士官学校は、海軍の幹部候補を育成する日本で言えば防衛大学のような学校で、学費や生活費等は全て無料、

 学びながら給料も支給され卒業すれば、すぐ海軍少尉の階級が与えられるため、入学希望者は非常に多く、学力重視の試験

 が行われるそうです。学力的には最難関大学と同レベルで理系学科に強い人が圧倒的有利、セジョンは、その大学を次席で

 卒業した訳ですから、非常に頭脳明晰であったことは間違いありません。軍事訓練は当然受けるものの学業にかなりの重点が

 おかれているとのことで、全体の一割は女性だそうです。

 よってここまでなら、理系学科と語学に強く、勉強することが苦でなく、体力があって泳げれば、どうにかなるかもしれない、

 例えて言うなら「ごく一般的な公立中学校において、学年に1人か2人くらいは可能な人がいる」レベルです。


『韓国海軍特殊部隊を紹介するDVD、特殊部隊の書籍』


 韓国海軍特殊部隊とは

 ところが特殊作戦に参加するには、志願して海軍特殊部隊の教育機関に入らなければなりません。セジョンは、海軍士官学校

 在学中または卒業後に特殊部隊の教育を受け、特に優秀な成績を修めたので、アメリカ海軍特殊部隊 U.S.NAVY SEAL

 派遣されたと思われます。SEALとは、SEA(海)AIR(空)LAND(陸)の略であらゆる状況での特殊作戦が可能な最強部隊です。

 そして、韓国海軍特殊部隊の教育機関に入校する条件は、

 ☆身長 168cm 以上  ☆視力 左右裸眼 0.8 以上(色弱および色盲除外)  ☆体重 65kg 以上 96kg 以下

 ☆胸囲 100cm 以上  ☆交通事故など各種事故後遺症及び各種長期疾患保有者除外

 ☆中耳炎、蓄膿症など耳鼻咽喉科疾患保有者除外 ☆関節炎、習慣性脱骨、靭帯損傷及び外科疾患保有者除外

 ☆皮膚病,肝炎など伝染性疾患保有者及び痔疾疾患保有者除外

 海軍士官学校に合格するには、高校時代から遊ぶ暇もなく塾にも通い学業の勉強をしなければならないようで、視力が左右

 裸眼で 0.8 以上はとても大変な条件だと一番に思いました。また、完璧に健康で、太り過ぎも痩せ過ぎもせず、現在完治して

 いても過去に骨折歴などがあれば除外されてしまう非常に厳しい条件です。実際この条件を全てクリアして、教育機関に入って

 も卒業出来るのは全体の1割〜2割、想像を絶する、まるで地獄をさまようような過酷な訓練が行われ、卒業出来た人の能力

 は通常の優秀な兵士の10倍以上「人間兵器」とも言われています。以上から隊員像をまとめると...

 ☆体力、テクニック、臨機応変能力、動物的本能に、並外れている

 ☆使命感と名誉を食べて生きる軍人、金の誘惑を受ける隊員がいない

 ☆徹底したチーム作戦展開につき、2〜3年間メンバーはかわらず兄弟よりも強い絆で結ばれ目線だけで互いの心が読める


  『訓練の様子』 対北情報調査部 より』


 そして特筆すべきは、この機関に入る前には「いつ死んでも構いません」と全員が誓約書を書くことです。

 特殊部隊の第一の役割は有事の際、正規軍が踏み込めない地域で初動作戦を行うことで、その作戦での成功・不成功が勝敗

 を決める全てに近いと言っても過言でないほど重要です。特殊能力を有する少数先鋭の部隊が、極めて高い危険性をも顧みず

 任務を遂行して、正規軍を影から支えている訳です。よって「生死感」に関して特別な考えを持っているはずで、セジョンの母親

 にしても、夫を特殊作戦で失いながら1人息子の海軍士官学校行きを認める心情は、理解が困難な部分です。


『カン・セジョン、UDT/SEALのTシャツを着た仲間』


 ここまで来ると「各都道府県に1人いるか、いないか」の特別なレベルと言えるのではないでしょうか。

 イ・ジョンジェが、この役を演じる為、どれほど苦労したかが容易に想像出来ます。

 一般的に、韓国海軍特殊部隊とは「UDT/SEAL」のことで、水中爆破(UDT:Underwater Demolition Team)陸海空全天候

 特殊作戦(SEAL:Sea Air Land)爆発物処理(EOD:Explosive Ordnance Disposal)海上対テロと4つの任務を遂行する部隊です。

 他に、セジョンが派遣された経験のある「海難救助隊」(SSU-Ship Salvage Unit)、2003年以降セジョンの所属部署となって

 いる「海軍諜報部隊」( NIA:Naval Intelligence Agency/UDU:Underwater Demolition Unit) 等があります。

 諜報作戦を施行する部隊の活動や詳細に関しては、大部分が機密になっているため、その実態はベールに包まれています。


『海難救助隊(SSU-Ship Salvage Unit)に2ヶ月間派遣された経験を語るセジョン』


 卒業後のセジョンの活躍

 セジョンの記録に1996年に起きた武装スパイ事件で「北朝鮮の工作船を最後まで追撃して全滅させる活躍をした」とあります

 ので、当該事件に少し触れます。正式には「江陵北朝鮮潜水艦浸透事件」1996年9月18日江原道江陵市で、韓国内に進入

 していた工作員を回収しにきた北朝鮮のサンオ級潜水艦が座礁した事件で、当時のキム・ヨンサム大統領は、武装ゲリラによる

 許しがたい武力挑発と断定し、軍・警察を動員しての掃討作戦を開始しました。同年11月7日に掃討作戦は終了、逮捕1名、

 射殺13名、集団自決11名、行方不明1名。韓国側は、軍人13名、民間人6名が死亡し、座礁した潜水艦から大量の武器など

 多数が押収されました。


『事件が起きた江原道江陵市の海岸線、座礁した北朝鮮の潜水艦や海岸で作業する本物の海軍特殊部隊隊員』


 この事件で「これまで影の部隊と言われベールに包まれていた海軍特殊部隊の活躍が初めて明かされた」と、参考にした韓国

 海軍特殊部隊のDVDで紹介されていました。セジョンが卒業後、間もなく重大事件が発生し、そこで大活躍したことになります。

 その後も順調に任務を遂行して経験を積んだようですが、2002年6月29日「第2延坪海戦(西海交戦)」で無二の親友を失い

 その事件がきっかけかは定かでありませんが、2003年より海軍諜報部隊の広報課勤務となりました。


 生死感について考える

 以上を総合的に勘案して、カン・セジョンと11人の仲間が極めて稀な存在であることは、ある程度ご理解頂けたと思いますので

 最後に重要な部分である「生死感」ついて触れてみます。

 先ず私自身の考えですが、映画「タイフーン」に共感しているとは言え「いかなる理由があろうと人を殺すことは絶対いけない」と

 認識しています。それを前提の上で、例えば徴兵制度のある韓国で私が男性として生まれた場合、「兵役に行けば、人を殺す

 ことになるかもしれないので行きません」とは決して言わず、進んで行くつもりです。そこに矛盾があるとは思いません。

 現在戦争が進行している最中だと仮定して、「人を殺したくないから戦争に行かない人」と「戦争は既に始まっているのだから

 母国を守るために戦争に行き、人を殺すかもしれないけれど、自分も死ぬかもしれない人」は、どちらが正しいでしょうか?

 この答えの全ては自分の心の中にあり、それは「動機」と言われるものです。いかなる場合でも「動機」が優先され、たとえ、

 「人を殺す」と言う究極の行為であっても例外でないと思っています。


『シーホークに仲間を先に乗せるセジョン、家族の写真(オ・ミンさんの動画より)』


 私は随所で、セジョンが「自分の動機を正しいと信じて行動している」と感じられます。また私利私欲に走らないのは痩せ我慢

 ではなく「いつでも死ぬ覚悟が出来ており、大金などあっても意味がない」との考えからだと理解しています。

 ここに「死んでしまえば全てが終わる」のではなく「死は新たな始まり」だとの「生死感」があり、だからこそ常に正しい「動機」を

 持って生き、新たな始まりに備えているのではないでしょうか。セジョンのような特殊な職業に就く人は、以上のような考え方

 でもなければ、とても勤まらない厳しい職業ではないかと思います。


 結論として

 (5)「今どきの若者が国のために命を投げ出そうなどと考えるはずがない、美化して描いている」は、極稀な若者であることは

 確かですが現実にそのような若者が存在することは事実であり、美化して描いているどころか、冷静にその存在を伝えようと、

 ディティールにもこだわりながら、より本物に近いイメージを追求しているところに深い共感を覚えます。

 また、(6)「これから死ぬかもしれないのに随分淡々としている」は、彼らの生死感を理解する、しないは自由ですが、自らが

 選んだ生き方と、正しい「動機」に自信と誇りを持って常に「今を生きている」ので「これから死ぬこと」も極端な言い方をすれば

 特別なことではなく、彼らの日常なのだと言えるでしょう。

 世界中が平和で争いなど一切起きなければ彼らは不要ですが、そうなるには気の遠くなるような時間の経過が必要です。

 それならば、誰かが就かなければならない職業であり、その職業の存在にすら無関心な人々に一石を投じる意味でも、また、

 南北分断により本来は陸続きの半島国家が島国と同様の軍事戦略を練らなければならない現実、北朝鮮が世界一の規模で

 特殊部隊を有している現実をも視野に入れて、韓国海軍特殊部隊にスポットを当てた作品は、まさに正しい「動機」のもとで、

 制作されものだと強く感じます。


『シーホーク内で操縦士の手を力強く握るセジョン、目を合わせるだけで通じ合える瞬間(オ・ミンさんの動画より)』


 オ・ミンさんの「セジョンの gif collection」は、タイフーン号での激しい戦闘シーンの続きです。

 「RIOT」の最新アルバム「ARMY OF ONE」の中で一番戦闘シーンに合うサウンドは、アルバムと同名の「Army of one」ですが

 いかにも地上戦と言う感じなので、「The Mystic」を選びました。おなじみツインリードが美しい疾走系で、詩の内容も洋上の

 戦闘にマッチしています。いよいよ次回は、オ・ミンさんの「セジョンの gif collection」も、私の「検証シリーズ タイフーン」も

 最終回を迎えます。マニアなら容易に察しがつくと思いますが、最後まで温存させた世紀の名曲をお届けする予定です。


 MV『セジョンの gif collection-10(制作 オ・ミンさん) RIOT The Mystic』


 遂に最終回、勇気を出して核心に踏み込みます。




                      
inserted by FC2 system