09.02.12 検証シリーズ 映画「タイフーン」 Part 2

 私にとって特別な作品、映画「タイフーン」の批判的な意見の中で、どうしても弁護したい点について書いています。


              


 Part 1では下記、(1) の弁護だけで終わってしまったので、今回は (2) の「風船爆弾の発想が滑稽だ」から始めます。

 私が、見た限りで一番多かった批判的な意見は「シンの作戦が唐突過ぎる」と言った内容でした。詳細を挙げると、

 (1)2つの台風の相互作用で起きる現象「藤原の効果」を見込んでの作戦だが、現象が起こらなかったらどうするのか?

 (2)風船爆弾の発想が滑稽だ。

 (3)いろいろ準備してきたのに最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったことが理解出来ない。

 (4)銃撃シーンが多く残酷過ぎる。


 また、同期の独身仲間と共にその作戦を阻止するために立ち上がったセジョンに対しても、

 (5)今どきの若者が国のために命を投げ出そうなどと考えるはずがない、美化して描いている。

 (6)これから死ぬかもしれないのに随分淡々としている。


 そして、全体的に、

 (7)訴えたいこと、言いたいことが多過ぎてまとまりがない。


 風船爆弾を滑稽なものと捉える心理は

 私が「タイフーン」の批判的意見の中で、一番悲しく心を痛めたのが風船爆弾のことでした。

 嘲笑する人には、それなりの固定観念があるはずで、その固定観念から来る誤解を解きたい気持ちで一杯です。

 風船爆弾に関する資料は、私の住まいから近いところでは江戸東京博物館や埼玉県平和資料館などで見ることが出来ますし

 書物でも興味深い良書が発刊されています。これらを総合すると、風船爆弾は日本軍が開発して太平洋戦争末期にアメリカに

 に向け強い偏西風(ジェット気流)に乗せて飛ばした爆弾を吊した風船のことですが、言葉の持つイメージから来ると考えられる

 「低い技術のいい加減な物」ではなく、実際は「高い技術の精巧で計算され尽くした物」でした。

 愛媛県立川之江高等女学校三十三回生の会(著)「風船爆弾を作った日々」(徒勤労動員のため風船爆弾製造にかり出された

 女学生たち、60年後の証言)で、「アメリカが原爆を作っていたとき、わたしたちはせっせと秘密兵器・風船爆弾を作っていた」

 と証言されているように、「原爆」対「風船爆弾」では確かに勝ち目はありませんし、水素ガスが入った風船の材料はコウゾ100%

 の和紙で、貼り合わせる糊は蒟蒻(こんにちゃく)だったことから、「紙風船」を連想するなど、誤解され易いのだと思います。


『素朴で美しいコウゾの花 北信州の道草図鑑 より』


 ジェット気流発見と風船爆弾開発

 強い偏西風(ジェット気流)の存在を最初に発見したのは日本人の大石和三郎(高層気象台長)で、1920年代のことでした。

 日本は第一次大戦の経験から軍部が気象の重要性を認識しており、中央気象台の他に陸軍と海軍に気象機関がありました。

 陸軍には科学研究所(登戸研究所)もあり、その第一科で風船爆弾の研究が進められ、Part 1で紹介したように藤原咲平は、

 第二次世界大戦中に中央気象台長に就任し、開発に積極的に協力したようです。最初は対ソ連戦用兵器として満州の関東軍

 (陸軍)が研究を始めたものでしたが、実用化されたのはアメリカ向けでした。その時、既に日本の気象学は進んでおりジェット

 気流を正確に観測する技術があり、世界初の大陸間横断兵器は、その技術に頼るところが大きかったようです。


『風船爆弾ウィキペディアより、江戸東京博物館 模型、埼玉県平和資料館 模型』


 話は少しそれますが、当時の日本海軍は台風の右後半域(第4象限)の危険性をよく研究しており、第二次世界大戦中、日本軍

 の全艦艇で、気象が原因による損失は1艦も無かったことは意外な事実です。逆にアメリカは気象の研究が遅れており、台風に

 みまわれた艦隊は大きな損害を出しました。


『風船爆弾関連の書物』


 推進力の無い風船を正確に飛ばすには

 推進力の無い風船を正確に飛ばすには、風船爆弾の心臓とも言える「高度維持装置」の存在が欠かせませんでした。

 2007年12月25日付けの朝日新聞によると『気球を遠くまで確実に飛ばすには、途中気温低下などで浮力が小さくなったとき、

 自動的におもりを落とし高度を保つしくみが欠かせない。装置は気圧計で気圧変化を検知し歯車1個分ずつ回転板を回すしくみ。

 高度が下がる(気圧が上がる)と電気スイッチが入り高度が上がるまで砂のおもりを 落とすようになっていたらしい。

 その風船爆弾の高度維持装置が国立科学博物館に今月27日に寄贈されるという。


             『朝日新聞掲載の風船爆弾概要図、高度維持装置』


 寄贈するのは、今年「風船爆弾秘話」(光人社)を出版した元横浜共立学園教諭桜井誠子さん(66)横浜市栄区。同校の女学生

 が戦時中この装置の検査に動員されていたことを知り、関係者をたどるうち装置作りに携わり、ひそかに持ち出していた男性を

 探しあてた。発覚すれば極刑になるほどの最高機密だったといい、男性は今も名乗り出ることを避け、詳しい経緯を語らない。

 国立科学博物館は日本の科学技術の歩みを紹介するフロアで、零戦などとともに展示する考え。鈴木一義研究主幹は「目的の

 是非は別にして、手元にあるものを組み合わせて何とかしてしまう、技術者の発想力のすごさを感じるという』


『風船爆弾関連の書物』


 冬には高度1万mあたりで秒速60m(時速200km)の一番強い風が吹いており、約50時間でアメリカ本土へ到着する計算

 です。ジェット気流に乗せて高度を一定に維持すれば、到着時間も想定出来、爆弾投下時間の予測も可能になる訳です。

 その為、気圧計が不可欠で「アネロイド気圧計」が使用されました。アネロイドとは「液体を使用しない」と言う意味でダイアフラム

 (運動する部品と静止している部品のすきまにはられた分離用の薄膜)は金属板を密封し内部を真空にして、大気圧の変化に

 よりダイアフラムが伸縮するのをテコの原理で拡大して指示します。高度が下がるとアネロイド気圧計の缶がつぶれテコが働き

 風船爆弾の高度維持装置の円盤を回転させることでスイッチが繋がり砂袋を投下させて風船を上昇させる仕組みです。


『タイフーン号の風船爆弾、風船爆弾を発見するセジョン』


 約9000発が千葉県一ノ宮・茨城県大津・福島県勿来の海岸から打ち上げられ、約900発がアメリカ西海岸を中心に到達した

 と推定されます。1部はワシントン州ハンフォード原爆工場にも落下して、アメリカは細菌や化学兵器を搭載しているのではない

 かと恐れたうえ、気球の材料(貼り合わせと補強に使用した蒟蒻)が特定出来ず謎のままでした。戦果を日本に知られたくない

 ことと、国民がパニックに陥るのを恐れて報道管制をひいていたところ、知らずに触れてしまった住民に死者が出ました。

 敗戦色が濃くなった中、資源もなく、極めて劣悪な状況下でも、軍と民間が一体となって最期まで諦めず、出来る限りの手を尽く

 した姿勢、成功したとは言えないまでも、限られた材料で精度の高い兵器を作り出した情熱には頭が下がります。

 戦争と言う不幸な目的での団結は大変残念ですが、この底力は平和な世の中では、さらに素晴らしい結果を生み出すもので、

 我が国が戦後、驚異的な復興をとげる力になったことは間違いないと思います。


 結論として

 日本人であれば、少しあとから生まれ苦労も無く繁栄を享受した者が、風船爆弾を嘲笑するのは罪深いことです。

 外国の方に対しては、第二次世界大戦で日本は大きな罪を犯しましたが、我が国の驚異的な復興は全世界にとっても不幸

 なことではなかったと思うので、風船爆弾にまつわる秘話は、厳しい状況を打開する時の参考にして頂ければと願っています。

 (2)「風船爆弾の発想が滑稽だ」は、シンの作った風船爆弾は、日本軍が劣悪な状況で作った物より精巧に出来ていたはずで

 「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」的ないい加減な物ではなく、イメージだけで誤解されたものと思われます。


 映画「タイフーン」の最重要部分〜赤いボタン〜

『雄叫びをあげながらハッチを閉めるセジョン、閉じられる寸前のハッチ』


 次は、(3)の「いろいろ準備してきたのに最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったことが理解出来ない」に進みます。

 前シリーズで私の好きなシーンを紹介して来ましたが「私が個人的に好きなシーン」が必ずしも重要なシーンとは限りません。

 シンが「最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったこと」は、私の趣向とは関係なく映画「タイフーン」の最重要部分

 であると思います。傷だらけのセジョンが、最後の力を振り絞り、風船爆弾が飛んで行かないようにハッチを閉めるために手動の

 重いハンドルを回したにも関わらず、数個の風船爆弾は飛んで行きました。赤いボタンを押さなかったことが理解出来なかった方

 に私が逆にお聞きしたいのは、もしシンがボタンを押して5個の風船爆弾が韓国内で爆発して死者が出たとしたら、核(放射性)

 廃棄物で環境が破壊されたら、それで満足ですか? それで成功ですか? そんな筈はないと思います。

 被害に遭った韓国の人は北朝鮮を恨み、また報復し、いつまでもいつまでも恨みの連鎖が途絶えるとこはないでしょう。


『ロシア人の男からリモコンの説明を受けるシン、リモコンの青ボタンが電源・赤ボタンが10時間後に作動する時限装置』


 風船爆弾は恨みの連鎖を断ち切る象徴です

 第二次世界大戦に於いて日本の民間人の死者は約80万人と言われています。それに対してアメリカは、日本軍が2回ほど

 アメリカ本土を爆撃していますが、もともと森林を爆撃して延焼被害を狙ったものであったため、民間人ばかりでなく兵員の死者

 もでませんでした。よって本土での被害者は、風船爆弾による6名でした。(6名の他にも、ハワイでは日本軍の真珠湾攻撃に

 より民間人の死者は45人〜60人くらい出ており、統計には出ていない被害が他にあった可能性は多分にあります)

 2007年8月15日付けの埼玉新聞によると『1945年5月5日、アメリカ オレゴン州の山間の村ブライでピクニック中の牧師婦人

 と10歳〜14歳の子ども5人が、奇妙な物の手を伸ばした瞬間爆発して犠牲になった。福岡県八女市に住む井上俊子さん(78)

 は、八女高等女学校時代に風船爆弾の原紙作りに動員され、戦後50年の1995年6月、女学校仲間ら14人とブライを訪れた。

 「訪問前は批判もあったが、訪問で戦争が一人一人に苦悩を残すことを知った。村人の温かい出迎えと、あなた方を恨んでは

 いないという言葉に、人間は通じ合えると思いました」 恨みの連鎖を断ち切る希望があった。女学生らが作った風船爆弾。』

 2005年9月20日付けの西日本新聞によると『第二次世界大戦末期、旧日本陸軍が開発した風船爆弾をテーマにドキュメンタリー

 映画を制作しているアメリカの女性監督が19日、福岡県八女市を訪れ、爆弾の製造に携わった当時の女学生4人を取材撮影。

 「当初は青春を戦争のために犠牲にしたとの思いしかなかったけれど犠牲者の存在を知った際、初めて申し訳ないと感じた」

 と心情を吐露。4人は、ブライでは温かい歓迎を受け、素直に謝罪できたことなども証言した。

 女性監督は「日本の民間犠牲者が圧倒的に多いのに彼女たちが謝罪に至った背景を知りたかった。収穫はあった。編集する際

 は米国人だけでなく日本人の思いも大事にしたい」と語る。映画は来年5月までに完成させ各国の映画祭へ出品するという。』


『シン(チャン・ドンゴン) Happy Together miyukiさん の作品』


 結論として

 現在も世界中で紛争が絶えず、その大半は恨みの連鎖を断ち切ることが出来ない故に起こっていると言えるでしょう。

 とても単純で普遍的なことですが、誰かが、何時か、すぱっと断ち切らなければいけないのです。

 (3)「いろいろ準備してきたのに最終的には時限装置のボタン(赤)を押さなかったことが理解出来ない」

 激しい怒りを抱き復讐を試みながら最後に押さなかったシンの行為は、恨みの連鎖を断ち切った素晴らしい英断であり、

 もっと理解され称えられるべき功績だと思います。復讐から何も生み出すことは出来ません。罪を憎むより変えて行く勇気を。

 
『ゾディアックゴムボートでタイターン号に接近するセジョン達、鉤付き空気銃を打ち上げるセジョン』


 オ・ミンさんの「セジョンの gif collection」は、いよいよセジョン達がタイフーン号に突入するシーンに入りました。

 早く使いたくてうずうずしながら、これまで温存して来た疾走系パワーメタルの真髄「Dance Of Death」が遂に登場です。

 この日をどんなに待ったことか。コンセプトアルバム「THE PRIVILEGE OF POWER」に収録されているこの曲は「RIOT」の伝説的

 名曲と言われる「Thundersteel」を超えていると絶賛するファンも少なくありません。どちらがより優れているか私は甲乙を付け

 られませんが、迫力感・疾走感・哀愁の秘め方に関しては上回っていると思います。前シリーズで紹介した通り「天安門事件」

 がテーマとなっている為、中国的なSE(効果音(Sound Effect))が、曲の前半と最後にあり「タイフーン」のイメージには合わない

 のでカットさせて頂きました。オ・ミンさんは、JJギャラリー1周年を記念して、当初は約9分超え(画像数 2500枚〜2700枚)

 だった作品を、私の思い入れが強い「Dance Of Death」の長さ(画像数 2000枚)にぴったり合わせて仕上げてくださいました。

 オリジナル『セジョンの gif collection-9』は、その長さに合わせて「タイフーン」OSTの数曲を上手く繋げたもので、音楽面

 でも技術の高さに感嘆させられます。オ・ミンさん、最高のプレゼントをありがとうございました!


 MV『セジョンの gif collection-9(制作 オ・ミンさん) RIOT Dance Of Death』


シンの激情、セジョンの正義感、オ・ミンさんの情熱、私の風船爆弾に対する想い、全てが炸裂します。




                      
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